Netflixが贈る『アガサ・クリスティのセブンダイヤルズ』は、ミステリーの女王アガサ・クリスティの長編小説『七つの時計』を原作とする全3話のリミテッドシリーズです。1920年代の華やかな英国を舞台に、郊外の大邸宅で起こった不可解な死を発端に、才気あふれる若い貴族バンドルが、謎の秘密結社「セブンダイヤルズ」を巡る巨大な陰謀へと巻き込まれていく本格ミステリーが展開されます。
あらすじ
1925年、イングランドのチムニーズ館で豪華なパーティーが開催されていました。夜更かし好きで寝坊助のジェリーに対し、他の招待客が複数の目覚まし時計を仕掛けるという悪ふざけが行われます。しかし翌朝、目覚まし時計が鳴り響く中、ジェリーは姿を見せず、心配したバンドルが彼の部屋で亡くなっているのを発見します。医師はアルコールと睡眠薬の組み合わせによる事故死、または自殺と診断しますが、バンドルは親しい友人としての直感から、彼の死に疑問を抱きます。ジェリーがプロポーズを考えていたこと、そして戦時中の激しい爆撃下でも寝過ごしたという逸話を知っていたバンドルは、死因が他殺であると確信を深めます。
捜査を独自に始めたバンドルは、協力してくれた友人のロニー・デヴァルーが自身の目の前で命を落とすという悲劇に見舞われます。ロニーは死の間際に「伝えて……ジミー・セシジャー……セブンダイヤルズ……」という謎の言葉を残します。スコットランドヤードのバトル警視も動き出す中、バンドルはジミーの協力を得ながら、友人の死の真相、そして「セブンダイヤルズ」という秘密結社の謎に迫っていくことになります。
登場人物とキャスト
- アイリーン・ブレント/バンドル(ミア・マッケンナ=ブルース)
好奇心旺盛で行動力のある若き女性貴族。ジェリーの死をきっかけに、秘密結社「セブンダイヤルズ」の謎を追うことになります。 - ジミー・セシジャー(エドワード・ブルーメル)
バンドルの捜査に協力する友人。物語の鍵を握る人物の一人です。 - バトル警視(マーティン・フリーマン)
事件の捜査を担当するスコットランドヤードの警視。冷静沈着な視点で事件の真相に迫ります。 - レディ・ケイタラム(ヘレナ・ボナム=カーター)
チムニーズ館の所有者であり、バンドルの母親。上流階級の女性として、物語に独特の存在感を与えます。 - ビル・エヴァズレー(ヒューイ・オドネル)
バンドルの友人の一人で、事件に巻き込まれていきます。 - ジョージ・ロマックス(アレックス・マックイーン)
有力な実業家で、ワイヴァーン修道院での政治イベントを主催します。 - ロニー・デヴァルー(ナバーン・リズワン)
ジェリーの友人であり、バンドルの捜査に協力しますが、命を落とします。死の間際に「セブンダイヤルズ」に関する言葉を残します。 - ジェリー・ウェイド(コリー・ミルクリースト)
チムニーズ館でのパーティーで亡くなる青年。彼の死が全ての事件の発端となります。 - シリル・マティプ/マティップ博士(ナシャ・ハテンディ)
不壊の懐中時計を発明した博士。彼の発明品が事件に深く関わります。 - ケイタラム卿(イアン・グレン)
バンドルの父親。物語の冒頭で既に亡くなっているとされますが、その死が事件の遠因となります。
ネタバレ
事件の背後には、バンドルの母親であるレディ・ケイタラムがいました。彼女は、第一次世界大戦で息子を失ったことへの復讐と、破産寸前だったチムニーズ館を救うため、一連の事件を計画していたのです。冒頭で残酷な殺され方をした男性こそがケイタラム卿であり、彼の死もこの計画の一部でした。ジェリーとバンドルには生前に繋がりがあったことも、バンドルが事件に深く関わる動機となります。
「セブンダイヤルズ」という組織は、当初バンドルが想像していたような殺人集団ではなく、実は世界的な災害を防ぐために秘密裏に活動する組織であり、バンドルの父親もその一員でした。この二重のひねりが物語に深みを与えています。
犯人と動機
ジェリー・ウェイドを殺害したのはロレイン・ウェイドです。彼女はジミー・セシジャー、そしてレディ・ケイタラムの計画に加担していました。ロニー・デヴァルーを殺害したのはジミー・セシジャーです。レディ・ケイタラムは全てを計画した首謀者であり、彼女の動機は、戦争で失った息子への復讐と、チムニーズ館の財政難を解決するためでした。マティップ博士の発明品である不壊の懐中時計を巡る窃盗も、彼女たちの計画の一環でした。
トリック
最大のトリックは、ジェリーの死を「事故死」または「自殺」に見せかけたことと、マティップ博士の発明品を盗むための巧妙な策略です。さらに、「セブンダイヤルズ」という組織が、バンドルが当初疑っていたような悪の組織ではなく、実際には世界を守るための秘密結社であるという「どんでん返し」が視聴者を驚かせます。これにより、物語の視点と登場人物たちの真の役割が大きく覆されます。
結末
最終的に、列車内での追跡劇を経て、レディ・ケイタラム、ジミー・セシジャー、ロレイン・ウェイドはバトル警視正によって逮捕されます。マティップ博士の発明品は英国政府の管理下に置かれ、事件は解決を迎えます。
その後、バンドルはチムニーズ館に戻り、バトル警視と再会します。バトルは彼女に、「セブンダイヤルズ」の真の姿が、世界的な危機から人々を守るために活動する秘密組織であり、彼女の亡き父親もその一員であったことを明かします。そして、バンドルにこの組織の一員として活動するよう誘います。バンドルは「すべて教えてください」と答え、新たな使命を受け入れる決意を示し、物語は彼女が新たなスパイ活動の世界へと足を踏み入れることを暗示して幕を閉じます。
感想と考察
Netflixがアガサ・クリスティ作品に初めて挑んだ本作は、初期の冒険スリラーを選んだという点で意外性がありつつも、現代に合わせたドラマ性を追求した意欲作だと感じました。原作の主要なイベントは踏襲しつつも、最終話にかけてオリジナル要素が強まる構成は、新鮮な驚きを提供します。
特に印象的だったのは、登場人物の設定変更です。原作でコミカルな要素を担っていたケイタラム卿が既に故人となり、代わりにレディ・ケイタラムが中心人物となることで、物語全体がよりシリアスなトーンになった点は、原作の「楽しい冒険感」を好む層にとっては惜しまれるかもしれません。しかし、これにより事件のバックボーンがより深く描かれ、ジェリーとバンドルの繋がりが強化されたことで、バンドルが事件に関わる動機付けが説得力を増し、結末の悲劇性、そしてそこから立ち上がるバンドルの強さが際立っていたと思います。
「セブンダイヤルズ」という組織の存在感が原作よりも薄れたという意見もありますが、その代わりに一段階踏み込んだどんでん返しが用意されており、現代の視聴者にも受け入れやすいドラマ性を追求した結果だと考えられます。原作の魅力を活かしつつも、現代のドラマとして変えるべき部分と変えないべき部分の塩梅を熟考して制作されたことが伝わり、好感が持てます。
マーティン・フリーマン演じるバトル警視も、原作のイメージとは異なるものの、その存在感は作品に奥行きを与えていました。もし次回作があるならば、Netflix資本で、よりシリアスなクリスティ原作、例えば『謎のクィン氏』のようなノンシリーズ作品の映像化、そしてマーティン・フリーマンのバトル警視の再登場を期待したいところです。
余談
- Netflixリミテッドシリーズ『アガサ・クリスティのセブンダイヤルズ』は、2026年1月15日に世界同時配信されました。
- 本作は全3話構成で、制作は2026年、イギリスで行われました。
- 脚本は『ブロードチャーチ』や『ドクター・フー』で知られるクリス・チブナルが手掛け、クリス・スウィーニーが監督を務めました。
- 原作小説『七つの時計』(The Seven Dials Mystery)は1929年に発表されており、本作は1980年版に続く2度目の映像化となります。
- 原作からの主な変更点として、ケイタラム卿が既に亡くなっている設定となり、バンドルの母親であるレディ・ケイタラムが物語の中心に深く関与する点が挙げられます。これにより、原作の持つコメディ要素は薄まり、よりシリアスでドラマ性の強い作品に変化しています。
- また、原作にはない追加のどんでん返しが盛り込まれ、セブンダイヤルズという組織の存在感や位置づけにも違いが見られます。


コメント